
投資信託の選び方
長期の資産運用には投資信託が適しているとご紹介しましたが、実際に投資信託を始めるとなると、だれもが発する質問があります。「どれを買えば儲かるの? どれがいちばんいいファンドなの?」 この質問に答えるために、今回は、投資信託を選ぶ際の注意点、専門家のファンド評価の方法、何を判断材料とすればいいか、などをご紹介しましょう。
間違いやすいファンド選び
現在、日本で買えるファンドの数は2000本以上。それぞれが異なる性格をもっています。ファンドは、大きく国内債券、外国債券、国内株式、外国株式に分類できますが、そのなかでもさらに国内大型株、国内小型株、米国株、欧州株、アジア株というように、リスクとリターンの関係によって細かい分類ができます。また期間が限定されているものや、無期限のものがあるなど、長期運用に適したファンドもあれば短期の運用に適したものもあります。
ズラリと並んだファンドのリストを見て、皆さんがまず目をひかれるのは、「騰落率プラス○%」といった過去の運用成績と、評価会社がつけた星の数でしょう。「過去5年間の成績が騰落率20%プラス、星5つ」となれば、これは「いいファンド、儲かるファンド」のように見えます。しかし、そこには数字の罠がありますので、注意して見る必要があります。
●騰落率アップの罠 :
騰落率のプラス・マイナスという数字は、その期間の市場平均(ベンチマーク)と合わせて見る必要があります。例えば、10%プラスのファンドであっても、その期間の市場平均が20%プラスなら、他のファンドと比べて成績の悪いファンドということになり、逆に、市場が20%下落しているにもかかわらずマイナス10%なら、成績のよいファンドということになります。
●星の数の罠 :
モーニングスター、S&Pなど、多くの評価会社によって、評価の星がつけられていますが、これも過去の数字を元に、そのファンドの成績を示したものです。時期によって、国内小型株が好調だった時期や大型株が好調だった時期など、市場には波がありますので、単に星の数を比較するだけでファンドの良否を決めることはできません。ファンドを種類ごと(国内債券、国内小型株、海外・欧州株など)に分類し、その枠内でどれが成績がよかったかという観点でつけられる小分類でのレーティングを参考にすると良いでしょう。
過去の数字や星の数は、あくまでも過去を示すもの。将来も「いいファンド」であることを確約するものではありません。市場は常に変動しており、将来はだれにも予測できないのです。予測不可能なものを、どれだけ予測していくかという作業が投信評価なのです。
「いいファンド」とは?
以上のことを頭に入れて、あなたの資産運用について考えてみましょう。まず、最初に考えるべきことは、あなたが"何のために投資を行うのか"ということです。「3年後に必要な子どもの入学金に」「10年後に家を買うために」「20年後の老後の資金に」と、目的は人によってさまざまでしょう。目的によって投資期間や達成目標額は変わってきますし、それぞれの資産状況によって投資額やリスク許容度(どのくらいまで資金が減っても耐えられるか)も異なります。つまり、万人に共通する「いいファンド」というものはあり得ないのです。星5つのファンドであっても、マスコミで話題のファンドであっても、あなたにとっていいファンドであるとは限りません。要は"あなたの投資目的にあったファンドはどれか"です。
専門家は4つのPで評価する
では、専門家は実際にどのようにファンドを評価するのか、その手法を見てみましょう。専門家の間では、ファンド評価には下記の表にあるような4つのPを分析する必要があるといわれています。
4つのP
Performance(過去の成績) Philosophy(投資哲学)
People(人材・運用体制) Process(投資の手法) |
Performanceは数字による分析です。過去の数字は将来を予測するものではありませんが、過去に長期にわたってよい成績を上げているということは、将来を予測するうえでのひとつの指針となります。
他の3つのPはファンドの質を評価するための分析で、これらは、数字による「定量分析」に対して、「定性分析」といわれます。
例えば、プロ野球で2007年どこが優勝するか予測する場合を考えてみましょう。2006年の優勝チームの主砲である選手がメジャー・リーグにいくことが決まり、単純に前年の優勝チームがそのまま優勝すると考えることは難しいでしょう。優勝チームは主砲の抜けた穴をどう補強するのか、他のチームとの相対的な力関係はどうなるか、それを見るために、解説者はキャンプ地を訪問して選手たち実際に見たり、さまざまな人に会って話を聞いたりします。それと同じことがファンドについても行われるのです。
専門家は運用会社を訪問し、アナリストや実際の運用担当者であるファンドマネージャーに会ってインタビューするなかから、その会社の可能性を探ります。運用哲学・運用方針はどんなものか、運用体制はどうなっているか、「アナリストの能力は?」、「情報収集力は?」、「実際に運用に携わるチームの体制は?」、など調査項目は多岐にわたります。運用方針がコロコロ変わったり、チームのメンバーの入れ代わりが激しいなどの状況は考えもの。それがファンドの質を決めるからです。
このような分析は、他社と比較しながら継続的に行われなくては意味がありません。有能な専門家は、数カ月ごとにデータを更新し、評価をし直していきます。
個人がファンドを評価するには
個人がプロのようにファンドを評価することはかなり難しいと言わざるを得ませんが、自分の買うファンドを自分の責任で評価しておくことは大切なことです。では、個人の場合は何を評価の材料とすればいいのでしょうか。
まず、大きな判断基準となるのは「目論見書」。これはそのファンドの運用方針などを示した詳しい説明書で、いわば所信表明のようなものです。そして第2には「運用報告書」。これはその年の成績表というべきものです。そして第3には、さらに詳しい週次・月次の報告。これは一般的に運用会社のホームページで公表されています。
この3つに加えて、最近はインターネット上に多くの資産運用のためのサイトが開かれていますので、それらも参考にするとよいでしょう。そこには多くのアイディアや過去のデータが公開されていますから、それらを長期間にわたって観察するとよいでしょう。
こうして苦労の末、ファンドを選んだとしても、ファンドマネージャーが交代したり、運用会社そのものが合併してその運用体制が変わってしまうなど、予想外の運用成果となるリスクをゼロにすることはできません。そのリスクを小さくとどめる方法として「分散投資」を以前ご紹介しましたが、それは、ひとつのいい(と思われる)ファンドだけを買うより、複数のいい(と思われる)運用会社のファンドを買っておくほうが、万が一、そのなかのひとつの運用会社に予想外の事態が起こったとしても、ダメージが小さく抑えられるというやり方です。
専門家の力を上手に利用し、賢い投資者に
以上のことからも、ファンドの組み合わせも重要なポイントになります。国内・外国債券、国内・外国株式など、すべての投資対象でいい成績を残せる運用会社があると思いますか? それぞれの投資対象でよいと思われる運用会社のファンドを組み合わせる方が合理的ではないでしょうか。それは野球のチームが全員ホームランバッターばかり揃えても勝ちつづけることが難しいことに似ています。バッティングだけでなく、走塁、守備それぞれのスペシャリストでオールスター・チームを作ってはいかがでしょうか。しかし、すべてのファンドについて、ひとつひとつ定量分析を行うことはかなりの手間で、定性分析にいたっては、事実上個人では不可能です。
加えて、そのファンドの組み合わせた結果が、自分にとってよいバランスになっているかどうかをチェックする必要があります。このような個人の手に余る問題について、専門家の力をうまく利用するなどして投資を行うのが賢い投資者といえるでしょう。
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