預金に引き続き、代表的な金融商品である債券をご紹介します。超低金利やペイオフ解禁を受けて、債券への注目が高まったのがゼロ金利解除前の状況です。債券は預金よりは高い利回りが得られ、特に国債には政府が保証しているという安心感や郵便局でも購入できる利便性があります。一方で、2001年には、マイカルや米エンロンの破綻で、購入した債券が紙屑同然になるという苦い経験をされた方もおられることでしょう。
「これからの資産管理」では、債券は2〜5年以内に使用する予定の資金の運用に充てることをお勧めしました。それを踏まえ、債券のリスクとリターン、リスクをコントロールする方法などを整理してご紹介いたします。
債券の特徴
債券とは、国や地方公共団体、政府関係機関、一般企業などの「発行体」が資金を調達するために発行する借用証書のようなものです。国が発行する「国債」、企業が発行する「社債」、金融機関が発行する「金融債」など、発行体によって呼び名が異なります。外国政府が日本で発行する「サムライ債」(円建外債)も債券です。(不幸にして2001年に債務不履行になったアルゼンチン債のせいで、一般に名が知られるようになってしまいました。)その他、債券の特徴によって「リッキー」(みずほ銀行<旧興銀>利付債)、「ワリチョー」(新生銀行<旧長銀>の割引金融債)のように商品名が付けられたものもあります。
債券の発行によって、発行体(国や企業など)が投資者からお金を借りるわけですから、返済期日(=償還日)や利子の支払いなどの条件が予め決められています。皆様の考える債券投資のメリットは、保有期間中に利息を受け取り、満期には元本が返ってくることでしょう。また、満期前に現金化することもできますが、市場価格は、市場の需要と供給で決まるため、元本より高い場合も低い場合もある点には注意が必要です。
信用リスク
次に、債券に投資する際の留意すべき点をご紹介します。
信用リスクは、預金の項目でも説明しましたが、発行体が倒産するリスクのことです。債券の発行体が倒産すると利息ばかりか元本までもが回収できなくなります。これはそう頻繁に起こらないものの、一度起こってしまうとその影響は甚大であることから、信用リスクは慎重に判断する必要があります。
倒産の可能性がある発行体の債券(=信用リスクの高い債券)は、買い手にとり魅力的となるようリスクの度合いに応じて利率を高くし、投資者は倒産の可能性と利息収入を両天秤にかけながら投資判断を行います。つまり、信用リスクの高い債券は、より高いリターンがある代わりにリスクも大きいということです。
格 付
信用リスクを知るのは重要ですが、その判断の助けとなるのが「格付」です。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)やムーディーズ等に代表される格付評価会社が、AAA(トリプルA)、AA(ダブルA)などの記号を用いて元本並びに利息の回収の可能性を相対的に評価したものです。(格付情報は、格付評価機関のHP等に掲載公表されています。)
BBB格(トリプルB)以上を「投資適格債」と呼び、信用力が高く投資に適した債券であるという目安になっています。BB(ダブルB)以下になると倒産するリスクが急激に高まるため、投資先として一般的にはお勧めできません。
また、格付は、一度チェックすればよいというものではありません。格付評価機関は、定期的に見直しを行い、格付の引上げや引下げを行うことがあるからです。ということで、格付は、ある時点での信用リスク判断を示しているにすぎず、発行体の信用リスクがその後急激に高まった場合等、ケースによっては格付の変更が実態に追いつかないというタイムラグがあることを覚えておくことも重要です。つまり格付は万能ではなく、本来は常に発行体の財務状況や株価等にも注意を払わなければならないのです。
このように格付は、信用リスクを定期的にチェックし、投資に適しているかどうか判断しなければならないのですが、残念ながら個人にとって楽な作業ではありません。
金利リスク=債券価格変動のリスク
債券は、金利が上がると価値が下落し、反対に、金利が下降すると価値が上昇します。直感的には金利上昇で価値が上がるのでは、と思う方もいらっしゃるかもしれません。次のケースを考えてみて下さい。利率が2%の債券Aを購入したとします。その後、いきなり金利が上昇し、他の条件は同様で、利率だけ4%になった債券Bが新たに発行されたら、当然債券Bのほうに人気が集まります。よって、債券Aの保有者が売却しようとすると、金利差の2%相当分を元本から値引きしないと買い手は見つからないのです。
債券投資では、満期まで保有せずに途中換金する際に金利が上昇すると元本が割れる可能性があり、特に10年国債など長期であれば、金利が上昇するリスクがそれだけ高くなってしまうのです。もちろん、金利が下がれば元本以上の価格で売却できます。(「個人向け国債」については市場で売買せず、国が直前2回分の金利と引き換えに買い取ってくれるなど、ここでの説明と違う特徴を持っています。)
国債を保有していて、預金金利が十分に上がったらその時点で、換金して預金に乗り換えればよいと誤解している方がよくいます。金利が上昇しているから途中換金しようとしても、保有する国債の価格が下がっているため、一概には有利な預け替えになるとは言えないのです。
プロダクトリスク=債券の仕組のリスク
債券自体の仕組みがわかりにくいことで、予想もしていない損失を被るリスクがあることにも注意が必要です。最近の例では、EB債や株価リンク債など、いわゆる「仕組み債」が発行されていて、リスクの所在が一目ではわからない商品がいくつか発行されています。
デリバティブなど高度な運用技術が組み込まれ中身がよくわからなくても、高い金利から表面的に良い商品と見えるので、すぐにでも買いたくなってしまいそうです。しかし、高い収益にはそれなりの理由があるはずです。どうなれば予定していた収益が得られなくなるか、きちんと把握できない場合は、購入を見合わせるべきでしょう。
最低購入単位
購入単位に注意することも大切です。利付国債や割引国債は、最低購入単位が5万円ですが、社債は10万円、50万円、100万円と発行体によって購入単位が異なります。運用したい金額と購入できる金額が食い違ってしまうことも考えられます。
債券を1つだけ購入する場合には、この購入単位は問題にならないかもしれません。しかし、信用リスクを低減するために、複数の債券に分散投資しようとすると、個人で数百万円の資金が必要になってしまいます。
債券の利用の仕方:ファンドを利用しましょう
以上のことから、債券を個別に購入される際には、以下の条件が揃っていることが必要です。
1. 投資期間・金額が確定していて、その期間・金額にちょうど合う債券がある
2. その信用リスク(格付)に納得ができる
3. 仕組を理解しやすい債券である
4. 利率にも満足している
5. 分散投資をする
しかし、信用リスクを低減するためどんなに調べても、絶対に損を避けられるという保証はえられません。そればかりか、個別企業の財務状況や債券の仕組みを調べ、理解し、選択するのは相当手間です。個人では、十分に分散投資をできるだけの資金がない場合もあります。
このような債券のデメリットを克服し、メリットを生かしつつリスクをコントロールする手法として、複数の債券に分散投資する「債券ファンド」(債券投資信託)の利用が考えられます。専門家が信用リスクを調査・判断し、適切な債券を選定して分散投資を行うのが債券ファンドです。さらに、投資信託ですので1万円から購入でき、小口からでも債券のメリットを享受できます。