代表的な金融商品として、預金・債券・株式・投資信託を個別にご紹介していきます。実は世の中に「リスクのない金融商品はない」のであって、それぞれ性質の異なるリスクを持っています。リスクの所在を知ると同時に、それぞれの商品のメリットや使い方も知っておく必要があります。金融商品は、「収益性・安全性・流動性」の3つのポイントから吟味することが大切です。預金・債券・株式・投資信託それぞれが、この3つのポイントのうち、どこに強みを持つのかもしっかり押さえましょう。
預貯金にもリスクがある
日本の個人金融資産1,506兆円のうち51.2%までもが預貯金で占められています。(日銀資金循環:金融資産・負債残高表
2006年3月末現在)「日本人は預金好き」ということが、データからよくわかります。預金は、特に安全性、流動性の面で優れた金融商品です。しかも、バブル期の郵便貯金の利率は6%と、収益性の面でも、今から見れば魅力のある夢のような金融商品でした。
ところが、ゼロ金利が解除された今の預貯金の金利は、まだ1%にも満たない低い水準です。収益性の面からは決して満足できる商品ではありませんが、それでも多くの人が資産の大部分を預金にしています。これは、預金が「絶対に安全だ」と考えられているからです。そこで、預金にもリスクがあることを理解していただくために、代表的な3つのリスク、「物価上昇リスク」、「信用リスク」、「再運用リスク」をご紹介します。預金のメリットとデメリットを整理し、どのような目的で、資産全体のどの程度を預金にするべきかを検討してみてください。
1. 物価上昇リスク
預金には、元本が保証され、株式投資のようにお金が減ったり、なくなったりしない「安全性」があります。しかし、預けたお金の金額が同じままでも、購入する物の値段が上がってしまうとお金の購買力は落ちることになります。つまり、物価上昇(インフレ)はお金の実質的な価値を目減りさせてしまうのです。例えば、1970年からの30年間で、物価は平均して3.2倍になっています。上昇率の最も大きかった教育費は、同じ期間に7倍、上昇率の最も小さかった家電製品・家具等でも、2倍になっています。(総務省「消費者物価接続指数総覧」、「消費者物価指数年報」)
ただ、しばらくデフレが続き、物価がむしろ下がっていたため、本当に物価上昇を気にする必要があるのかという声も聞こえてきそうです。しかし、これからデフレが10年以上も延々と続くと決め付けるのも無理があると思いますし、ゼロ金利解除で、にわかにインフレが現実味を帯びてきています。少なくとも、今後の物価上昇への備えを全くしないでいいという理由にはならないと考えます。
日本の過去の実績を見れば、預金は長期では物価上昇になかなか勝てませんでした。勿論、将来も同じであるとは限りません。ただ、健全な運用先が見当たらず、一方で、しばらく不良債権処理に追われてきた銀行が、物価上昇にそのままスライドして金利を引き上げていくのかどうか、必ずしも楽観視できないのではないでしょうか。
2. 信用リスク
信用リスクとは、銀行が倒産してしまって、預金が全額引き出せなくなるかもしれないリスクです。「預けたお金がなくなったり減ったりしない」という今まで預金の最大の強みが、ペイオフ解禁により覆されつつあります。
これからは、銀行にお金を預ける際には、「この銀行は倒産しないか?」といった信用リスクを厳しくチェックすることが必要です。現に、ペイオフをきっかけとして、特に信用力に劣る地方の信金・信組の破綻が相次ぎ、銀行の淘汰が進んでいます。預金者にとっても、信用リスクはより身近な問題となっているのではないでしょうか。
(郵便貯金は、国が支払を保証しているため、信用リスクという点では安全です。ただし、民営化後の将来像が見えないという「制度リスク」があると言えます。)
3. 再運用リスク
再運用リスクは、預金の預け替えに関係するリスクのことです。計画していた投資期間より早く満期が来てしまう商品を購入し、満期後に、前の商品より低いリターンの商品に預け替えるしか選択肢がない場合などをさします。10年前の郵便貯金は、6%を超える高金利でしたが、2000年に満期を迎えた時には、同じように好条件の預け先がなく、結局現在の超低金利の預貯金に預け替えるしかない苦い思いをされた方もいらっしゃるでしょう。これが再運用リスクです。預け替え時の条件が、前と同じ金利という保証はどこにもありません。ですから、「条件がよいから」という理由だけで資金の使用時期や目的を決めないで預けてしまうと、あとで予定が狂ってしまうというリスクがあるのです。
預金からの収益性は?
預金の金利はどのように決まるのでしょうか。 預金は典型的な間接金融の商品で、銀行は市場における変動リスクを自分たちで引き受ける代わりに、その対価として高い収益性を享受します。そして、元本と利息を保証する代わりに、支払う金利を低く抑えてきました。実績をみると過去30年で平均3%程度の金利ですが、それよりも高い金利で貸出し、収益を稼いできたのです。
これまでは、景気の低迷、不良債権問題等から貸出金利を容易に引き上げられなかったのですが、ゼロ金利解除後の今でも、まだしばらく預金の小数点以下の低金利は続きそうです。個人にとって、過去のような収益性を期待することはできないのですが、実は銀行にとっても収益性が低下して困っているというのが現状です。
メリット:流動性が高い
流動性とは、「いつでも現金化できる」ということです。この点では、預金に勝る金融商品はないといっても過言ではないほどです。普通預金に比べればやや流動性に劣る定期預金でも、1ヶ月から数年程度まで満期を幅広く選択できます。従って、資金の性質を考えながら、投資期間を選べば、流動性については懸念する必要がないでしょう。(ただし、再運用リスクには注意して下さい。)仮に、定期預金を満期前に解約したとしても、普通預金並みの金利になるか、ペナルティとして定額の手数料をとられる程度です。
最近では、コンビニのATMやインターネット・バンキングなどが普及し、ほとんど24時間365日資金を引き出したり移動したりできるようになっています。(ただし、預金の利息よりも高い手数料を取られてしまうデメリットがあります。)
賢い預金との付き合い方
預金のメリットとデメリットをまとめると次のようになります。
1. ペイオフ解禁で安全性が完璧ではなくなった
2. 流動性の懸念はない
3. 収益性は不十分である
4. 長期的には物価上昇に負ける可能性がある
以上のことから、預金は近い将来に使うことが決まっている資金を一時的に置いておくのに適していることがわかります。預金の預け入れ水準は、「2年以内に使う予定のある資金」と、「失業などに備えた予備資金(一般的には生活費の6〜9ヶ月分)」の合計金額の範囲内におさめることが理想です。過剰な預金で、収益チャンスを逃すようなことがないようにご注意ください。
